1月17日付けの岐阜新聞の健康相談に
虚血性心疾患の診断 冠動脈CTかカテーテル検査
と題して記事を書かせていただきました。
紙面の関係上言葉足らずもありましたので、この場を借りて補足します。
まず最前線の実臨床の現場に冠動脈CTがどのような影響を与え始めているのでしょうか?ただしその影響を見るためには冠動脈CTとカテーテル検査がどちらも同じように運営されていなければなりません。
待ったなしの循環器の臨床現場において、検査に必要なことは
必要なら、
1)すぐにできること。
2)結果がすぐに分かること。
3)できるだけ多くの人に適用できること。
の3点が大切です。さらに、コストが安く検査時間が短ければグッドです。
当院では冠動脈CTのエクスパートが撮影・画像解析を行っています。緊急に対応し、撮影後数分で病変の存在が分かります。シーメンスの128列マルチスライスで画質的にも問題がありません。心房細動の患者様でもOKです。
ではこの冠動脈CT検査チームの導入で臨床現場がどう変わってきているのか?
次回より、検討していきたいと思います。
ステントが植え込まれた直後は金属がむき出しなので血液がステントに反応して急速に血栓閉塞する危険性があります(図)。その予防のために血液が凝固しにくいようにお薬を飲む必要があります。ではずっと飲み続けなければならないかというと、 人体はうまくできていてこのステントの上を覆うように新しい内膜を作ってくれるのです。これを新生内膜の増殖と呼びます。これは冠動脈の拡張に際して血管にどうしても傷がつくのでそれに対する正常な治癒反応なのです。従来のステント(ベアメタルステント いわゆる薬物溶出ステントではない)では、ステント植え込みから2週間から1か月で、ステントの大部分が被覆されます。ステントがこの新生内膜で覆われる1か月を過ぎるともうほとんど血栓閉塞は起こらないので強力な抗凝固薬は必要なくなります。
ただ、この増殖反応が強すぎて新生内膜が張りすぎるとステントの内腔が狭くなってしまうのです。けがした場合に、きれいに治る傷とケロイドのように少し盛り上がって治る傷があるのと同様です。この新生内膜の張りすぎた状態を再狭窄と呼びます(図)。
なぜステント再狭窄を確認する必要があるの?
従来のベアメタルステントを入れた場合はこのステント再狭窄は6か月頃が最も起こりやすく、その後はほとんど起きなくなります。したがって6ヶ月後が大丈夫ならずっと経過が良いことが分かっていますので、その後はお薬を減量したりすることができます。再狭窄が起きているのに、きちんと確認せずに薬を減量したり中止したりすると、狭くなっているために血流が悪くなり血栓ができる可能性があり危険です。
ステント再狭窄はCTで分かるのか?
この患者様は左図の黄色線の部分にステントが入っているのですが、このままでは、ステントの中に十分な血流があるのかどうか分かりません。
これをさらに詳しく検討したのが右図です。血管に沿って点線のように見えるのがステントです。ステントの内側に黒く見えるのがステントの中にあらたに増殖した新生内膜です。図のE、F、Gではステントの内側が黒く見えている新生内膜できれいに被覆されている様子が分かりますね。逆にH,Iでは、ほぼ完全にステント内腔新生内膜で狭くなっている(再狭窄をきたしている)のが良く分かると思います。当院の放射線部ではステントの種類ごとに最適化した条件で画像を作りステント再狭窄の診断をCTで可能にしています。
動脈硬化が原因で発症する疾患として脳卒中、心筋梗塞などが有名ですが、動脈硬化は脳や心臓のみにおこるわけではありません。下肢を栄養する大動脈、腸骨動脈、大腿動脈の狭窄、閉塞が原因で下肢虚血を生じる疾患が閉塞性動脈硬化症です。
その初期の症状は、下肢の冷感、しびれ感、そして歩行時の再現性あるふくらはぎや大腿部の痛みですが、歩行をやめるとよくなるという間欠性跛行が特徴的症状です。重症例では安静時にも痛みが生じるようになり、さらに重症化すると下肢に潰瘍を生じるようになり、放置すると下肢の切断が必要になります。
疫学的調査によると地域検診受診者の20%以上に閉塞性動脈硬化症が疑われる患者様が認められるという報告もあり、極めて頻度の高い疾患といえます。また脳卒中や冠動脈疾患を合併する確率が高いことも特徴であり、閉塞性動脈硬化症の68%に虚血性心疾患が合併し、42%に脳卒中が合併しているということが報告されています。
間欠性跛行の患者様の予後は極めて不良であり、間欠性跛行を生じる患者様の約30%が5年以内に血行再建術もしくは下肢切断が必要になり、潰瘍を生じるような重症例では1年以内に切断が必要になる症例が30%、死亡率が25%におよぶといわれています。これは乳癌や大腸癌、非ホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍に匹敵する予後不良疾患であることを意味しています。よって早期の適切な診断と治療が極めて大切な疾患といえます。治療は薬物療法、運動療法、そしてカテーテルもしくは外科的血行再建療法があります。
我々、岐阜ハートセンターは、多くの症例を経験してきた医師からなる外科チームと内科チームで協力して治療方針を決定します。とりわけカテーテル治療における経験数は、スーパーバイザーである鈴木・加藤・土金・朝倉そして当院の上野・松尾を含めると1万例に及びます。
循環器内科では、開院から6か月で末梢動脈カテーテル治療を43名の重症下肢虚血の患者様の治療にあたらせていただき、多くの喜びの声をいただいております。是非、御相談ください。(文責 循環器内科 松尾)
いつもハートセンターをご利用いただき、ありがとうございます。皆様のおかげで無事に開院から6か月を乗り切ることができました。
これから何回かに分けて、診療内容・実績をご紹介していきます。
第一弾はCT検査についてです。CTは今の心臓・血管領域の治療になくてはならないツールです。
この半年間で1307件のCT検査をさせていただきました。その内、造影剤を使って血管の状態を見る造影CT検査は773件(59%)でした。(図1)
当院の造影CTの特徴としてはシーメンス社の128列マルチスライスCTの特性を生かした冠動脈CT検査と全身の動脈を一発で撮影する検査です。詳しくは追って診療情報などで説明させていただきます。
これまで25年間ずっとカテーテルの世界で生きてきた私がこのハートセンターに来て驚かされたことの一つがこのCT検査でした。さらに当院ではステント内再狭窄もCTで判断できます。ハートセンターグループでは、植え込まれたステントの種類毎に撮影条件を最適化して再狭窄の発見に努めております(CT検査その2を参照して下さい)。
おかげでカテーテル検査をやらなくても良い患者様が増えました。ずっとこれまで外来で診療させていただいた患者様も少し高齢になられるとやはりカテーテルのリスクは高まります。一回目のカテーテル検査が大丈夫なら二回目以降はまず問題なくカテーテルはできるのですが、それでもCTに比べればリスクがありますし、またリスクが高いほど誰にやってもらうかも少し問題になります。やらないですむならやりたくないと、どの患者様でも考えておられると思います。
私の勘違いは、CT検査は誰がやっても結果は同じで、しかも信頼性が低くCTをやると「あそこも悪いかもしれない。ここも分らない」と結局カテーテルをやる破目になると考えていました。これが全く違っていました。CT検査は誰がどうやるかで結果の精密度が全く違ってくるものだったのです。プロカメラマンが最高のタイミングでシャッターを切り、最高の現像機で写真を仕上げるのと全く同じことだったのです。小林技師長を始めとして中島・梶浦の両技師は豊橋ハートセンターでしっかりと技術を叩き込まれたプロです。さらに彼らのもう一つの強みはたくさんのカテーテル検査も経験して冠動脈の理解も十分にあることです。CTだけ撮る技師とは明らかに違いました。これはびっくりでした。
開院当初、月64件だった心臓CTは半年後には倍増して138件になっています(図2)。結果的に無駄なカテーテル検査が減りました。診断カテーテルをしなくて済んだ患者様にも、あるいはカテーテルが怖いと言われた患者様でCTできちんと病気が見つかり心筋梗塞を予防できた方にも喜んでいただけました。カテーテル検査もそうですが、実はCT検査も誰にやってもらうかで結果が違ってくることがあります。
マシンのスペックも大切ですが、それを使う人の技術と情熱がもっと大切であることがよく分かりました。どんなに科学万能の時代になっても鍵を握るのは人の心です。これからも岐阜ハートセンターの職員一丸となって、さらに良いクオリティの検査・治療を目指して頑張っていきますので今後とも宜しくお願いします。